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Vol.11_データから見る介護現場のDX化の実態 – 現場スタッフはICTを使いこなせているのか?

更新日:3月28日




はじめに


MINLABOインサイトではヘルスケア業界に巻き起こる様々な課題について深堀りをしていきます。今回は介護DXです。介護業界では人材不足が叫ばれて久しいですが、その解決策となるICTの利活用が進んでいるのか実態に迫っていきます。



介護DXの必要性と現場の現状


介護現場におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は、単なる業務効率化にとどまらず、超高齢社会における持続可能な介護システムの確立に不可欠な要素となっています。日本の介護業界は、深刻な人材不足、職員の負担増、制度改正への対応、介護の質の向上といった多くの課題を抱えており、それらの解決策の一つとしてICTの導入が推し進められています。


ICT導入率は約70% – だが、本当に活用しきれているのか?

厚生労働省の令和5年度介護労働実態調査(回答事業所数)によると、介護事業所の約

70%が何らかのICT機器を導入しています。一見すると、ICTの導入は進んでいるように見えます。しかし、人手不足で手が回らず回答できていない事業所が多くいることが想定され実態の導入率とは乖離がある可能性があります。また実際に「現場で使いこなせているか?」という点については、依然として課題が多いと考えられます。


ICT機器の導入後の課題では職員が技術的に使いこなせるかどうかが不安という声も多く上がっています。


全体:35.0%

訪問系サービス:32.9%


特に中小規模の事業所では、ICTの導入や運用をサポートする専門スタッフがいないことが多く、「導入したものの、活用できない」といった声を聞きます。システムの導入はしたものの、使い勝手が悪く活用されていない、既存の業務フローに合わず運用が破綻している、導入後のフォローが不足している可能性があります。

出所:令和2年度、令和5年度介護労働実態調査


本記事では、最新データと現場の声をもとに、介護DXの実態を深掘りし、なぜICTが活用されないのか、どのような解決策があるかを探ります。



ICT導入の障壁 – なぜ介護現場で活用が進まないのか?


現場職員の高年齢化とITリテラシー不足

介護現場職員の平均年齢が50歳を上回りました。職種別の平均年齢は、訪問介護員が54.7歳、介護職員が47.3歳、サービス提供責任者が50.0歳、生活相談員が46.2歳、看護職員が52.2歳、介護支援専門員が53.0 歳となっています。この10年間で5歳以上平均年齢が上昇しています。主力の職員の高齢化とともに、介護現場ではパソコンやタブレットを日常的に使用する機会が限られており、ITスキルに対する不安を抱えるケースが多いです。特に、ベテラン職員ほど紙ベースの業務フローに慣れており、新しいシステムの導入に抵抗を示すことがあります。

出所:公益財団法人 介護労働安定センター「令和4年度介護労働実態調査」


事業所の独自ルールと各種システムの対応の難しさ

介護施設や訪問介護事業所では、同じサービスでも施設の方針、職員の習慣、利用者の特性によって異なる独自ルールが存在します。これらのルールがICTシステムの導入を阻む大きな要因になっています。


例:介護記録のフォーマットの違い

介護記録は、厚生労働省の基準に基づく記録項目があるものの、事業所ごとに記入形式や詳細度が異なることが一般的です。

例えば:

  • 手書き文化の根強い事業所:ICTシステムで入力しても、結局紙ベースでの記録が求められる

  • 細かいチェック項目を設けている施設:既存のシステムの入力項目が不足し、結局エクセルや紙を併用

  • 申し送りの方法が違う:「口頭での伝達が基本」→システムに入力されても活用されない


例:シフト管理のルールの違い

介護施設のシフトは、交代制勤務や突発的な欠勤への対応が求められるため、施設ごとにシフト作成のルールが異なります。

例えば:

  • 夜勤の時間帯設定が異なる

  • 残業や休憩時間の取り扱いが施設ごとに違う

  • 急な人員調整の方法が決まっているがシステムが対応できない


ICT導入後のフォロー不足

介護事業所にはDXを担当する部署や、責任者をつける人材も余裕もないことから適切なフォローが必要になると考えられます。


介護事業所側の問題点

  • 介護事業所の新入職員向けの継続的な研修体制が整っていないため、システムを理解できない職員が増え、結局紙やエクセル管理に戻る


ベンダー側の問題点

  • 大手ベンダーには、専任のサポートセンターが設置されているケースがあり、24時間対応や即日対応が可能な場合もある

  • 一方で中小企業ベンダーは、限られたスタッフで対応しているため、問い合わせが集中するとサポートが遅れることがある

介護現場とプロダクト開発の両経験からの

考察と解決に向けた提言

MINLABO fellow 大図拓也さん

理学療法士として総合病院・デイサービスでリハビリテーションに従事。その後、介護系スタートアップにて介護系記録アプリのプロダクトマネージャーとして開発・UI/UXデザインを担当。ディレクターとしてグッドデザイン賞を受賞。介護現場におけるICT活用の普及に向けて取り組んでいる。


実際に介護現場での実務経験、介護事業所向けのSaaSの開発・導入の経験を通して以下の課題を感じています。


人材不足をはじめとする業界特有の組織体制による限界

上記でも触れているように介護業界を深刻な人材不足です。また、中小企業は少数精鋭の介護・医療の専門職でケアをおこなっているため、ICTに詳しい人が多くありません。 それ故、あらたなICT活用に向けた計画やプロジェクト遂行を自分たちだけで進めるのは非常に難しい状況です。


導入初期は一時的に作業効率が下がり、断念しやすい

どんなに便利で使いやすいICTを導入しても、これまで慣れている業務スタイルを変え、新たな業務フローに切り替えると一時的に必ず作業効率が下がります。 その時に「これは一時的なもの」とスタッフが捉えられるか否かが非常に重要です。

上記の課題を解決していくためにも、ICTの導入サポートを受けながら進めていくことは一つの解決策として有効であると考えています。 業務内容を明確にし、どの業務に課題があるのか、どのように段階的に業務をICTに切り替えて行くかなどを「専門的な知識を持っている人と一緒に進めること」は導入障壁を下げるために有効な手段です。


しかしながら、私はすべての業務をICTに変更することが良いと思っていません。「業務を効率化すること」と「ケアの質の両立ができることに意味がある」と思っているからです。 情報の一覧性や活用場面によっては紙のほうが瞬時の情報把握・管理がしやすいこともある(全利用者の情報を俯瞰して瞬時に把握したい場面など)そのため事業所の運営状況に合わせたハイブリットでの運用が理想的であると考えています。

ICT導入は目的ではなくあくまで「手段」。本質は高齢者の元気につながるケアが提供できることだと私は考えていますし、現場のスタッフもそう望んでいるはずです。




お問い合わせ Mail:sales@minlabo.co.jp

執筆者 :MINLABO 山本 快仁











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