
はじめに
MINLABOインサイトではヘルスケア業界に巻き起こる様々な課題について深堀をしていきます。今回は11月に開催された、第64回日本核医学会学術総会/第44回日本核医学技術学会総会学術大会について、トレンド・注目領域についてまとめました。
※記事に出てくる言葉
MCI :Mild Cognitive Impairment (軽度認知障害)
PET:Positron Emission Tomography(陽電子放出断層撮影)
アミロイドPET:脳内に蓄積したアミロイドβを可視化する画像検査
タウPET:脳内に蓄積したタウ蛋白を可視化する画像検査
CSFバイオマーカー:脳脊髄液(CSF)中の物質を測定することで、疾患の有無や病状の変化、治療の効果の目安となる指標
核医学分野が今盛り上がりを見せている!
医療の未来を語る上で、今核医学分野が注目されています。日本核医学会/日本核医学技術学会2024では、その最前線が明らかにされました。がんや神経疾患の診断技術が進化し、特に認知症治療における核医学の役割が急速に拡大しています。核医学に馴染みが薄い方もいるかもしれませんが、その答えは未来の医療を形作るカギかもしれません。
核医学会2024を探索してわかったこと
今年の学会では、診断精度の向上や患者負担の軽減を目指した技術革新が中心的なテーマでした。AIを用いた画像解析、検査プロセスの自動化、新たな放射性薬剤の開発など、次々と発表される技術に会場は熱気に包まれていました。その中でも、注目を集めたのが神経疾患、特に認知症診断をめぐる議論です。認知症予備軍であるMCI(軽度認知障害)への早期介入を目指し、アミロイドPETの進化についての演題が学会の多くを占めていました。
アミロイドPETと認知症治療の現在地
アミロイドPETは、アルツハイマー病の原因とされるアミロイドベータ(Aβ)を脳内で直接可視化できる技術です。この技術が、認知症治療に新たな道を切り開こうとしています。学会では、アミロイドPETに関連する以下のトピックが議論されました
撮像時間の短縮:従来90分以上かかっていた撮像を短縮する技術が進展し、患者負担が軽減されつつあります。
解析の自動化と精度向上:PSF再構成技術や半定量解析により、より一貫性のある診断が可能になっています。
統合的診断アプローチ:アミロイドPETとタウPET、CSFバイオマーカーを組み合わせた診断で、MCI段階からの精密な層別化が期待されています。
これらは診断の「精度」と「早さ」を両立し、認知症治療を次のステージへ進める可能性を示しています。
アミロイドPETの進化と標準化
経疾患における核医学の役割が拡大する中で、特に注目されたのがアミロイドPETの技術革新です。アミロイドPETは、アルツハイマー病に関連する脳内アミロイドベータ(Aβ)の蓄積を可視化する技術であり、軽度認知障害(MCI)段階での活用が進んでいます。「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」の効能・効果で保険適用となっています。
今回の発表では、アミロイドPETの撮像条件や解析手法の最適化に関する研究が報告されました。例えば、18F-Flutemetamolを用いた撮像時間の影響を検討した研究では、従来推奨されていた90分の撮像時間に対し、短縮が可能な条件が示唆され、診断の効率化と患者負担の軽減につながる可能性が議論されました。
MCI診断への応用
MCIは、認知症へ進行する可能性の高い前段階として認識されており、早期診断が鍵となります。アミロイドPETを用いることで、MCI患者の脳内アミロイド蓄積を定量的に評価でき、リスク層別化や治療方針の策定に役立つことが明らかになっています。さらに、他のバイオマーカーとの統合的なアプローチが、診断精度をさらに高める可能性についても議論されました。
MCI患者の「掘り起こし」が次の大テーマ
学会全体を通じて感じたのは、「いかにMCI患者を効率的に見つけ出すか」というテーマの重要性です。認知症の多くは、MCIの段階で早期発見し、介入することで症状進行を遅らせることが可能です。しかし現状では、以下の課題が立ちはだかっています。
効率的な発見の仕組みづくり:MCIの疑いがある患者をいかに迅速にスクリーニングし、診断に結びつけるか。
PET施設へのリファーラル(紹介)体制:アミロイドPETは専門施設でしか利用できないため、地域医療機関とPET施設の連携が不可欠です。
薬剤供給と管理の課題:放射性薬剤は製造と流通に課題があり、技術進化に見合った体制整備が求められています。
認知症診断の未来はどうなるのか?
核医学分野の進化は、「精密で迅速な診断」と「患者に優しい医療」を両立する道筋を示しています。特にMCI患者の早期発見と治療が今後の焦点であり、そのためには技術革新だけでなく、医療体制全体の変革が必要です。
核医学会2024を通じて浮かび上がったのは、核医学が単なる検査技術ではなく、社会の課題を解決するポテンシャルを持つという事実です。アミロイドPETを活用した認知症診断の進化は、多くの人々に希望をもたらすことでしょう。そして、今まさにその未来を形作る挑戦が始まっています。
お問い合わせ Mail:sales@minlabo.co.jp
執筆者 山本 快仁:MINLABO

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